思い出ベア
やぁ!はじめまして。
僕は昨日生まれたんだ。
このところ古ネクタイのリメイクにはまっている彼女が僕を生んだんだ。
名前はまだなくて、今のところ
彼女は「思い出ベア」って、僕のことを呼んでいるようだ。
そんな呼び名はちょっとセンチメンタルだと、僕は思っているんだけど、
まあ、彼女の気持ちもわからないでもない。
僕が彼女の中にいるとき、
彼女の独り言や気持ちを聞いちゃった僕は、
女ごころって不思議なんだと、すでに学習してしまったからね。
僕がネクタイだった頃に見たものについて、
どんな仕事に付いていったのかとか、
どんな女の人に出会ったのかとか、
ひょっとして、抱きしめたりしたのとか・・
今日みたいに雨が降っていたのかとか、
寒かったのか、嬉しかったのかとか、
彼女はいろいろ思い巡らすようなんだ。
彼女の知らないもう一つの時間の
観察者としての僕に
馬鹿みたいに(怒られちゃうね)ヤキモキして楽しんでいるんだね。
僕ははっきり言って、いろいろ、知っているけれど、
言わないつもり。
彼女の楽しみをそっとしておきたいからね。
「思い出ベア」って、彼女が僕のことを呼んでいるのを
センチメンタルだというのは、だからこういうことなんだけれど、
彼女が僕を生まれ変わらせたので、
僕は新しく生きていこうと思ってる。
彼女は僕を車に乗せてどこにでも連れて行くし、
仕事中だって、ほら、コピー機の上にいて、
ずっと彼女を見てるんだ。
みんな過去があって、今がある。
過去のおかげで、今新しく出会えるんだからね。
僕と彼女がこうして出会えたのは、
運命だから・・
あ、でも彼女は僕の兄弟を生むつもりらしい。
古ネクタイだけじゃなく、
息子や娘の制服や小さくなった洋服なんかも物色してるんだ。
彼女すっかりはまってるからね。
まぁ、一人より二人がいいよね。
うん、そうさ、たくさんの思い出を新しい命に変えて。
また兄弟が生まれたら紹介するよ。
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