手のこと
遠く暮らす息子が帰ってくるというので
布団や枕を干したり
シーツや毛布を整えて
寝床を作っていたら
どこからかもう一人の私がひょっこりと出てきて
「甘やかしてるね」と言った。
大好きな肉じゃがでも作っておこうと
じゃがいもをむいていると
また声がする。
「甘やかしてるね。」
ちょっとからかうようなその声に
「いいやん、甘やかしたって。」
と言い返す。
たたむ、広げる、
洗う、むく
誰かのためにする手仕事ほど
幸せなものはない。
「甘やかしてるね」
息子を?
いえいえ、私を。
・
早瀬の冷たい川を
小さなボートに共に乗り
一緒に下ってくれた人が
去年のクリスマス前に亡くなった。
同い年のその彼はかつて
ホウレンソウを摘みながら花束にし
赤い手袋とプレゼントしてくれて
大きな船と比べたり、
舵取りの重責に打ちのめされてた私に
「あなたはあなた、で、いいじゃないですか。」と
にっこり笑ってふんわりと言ってくれた。
私の手は節がたちしわも増えた。
大したことはできないし
たくさんのこともできないけれど
日々の大事なものを繋ぐことはできると思って
こぶしを作っては開いてみたりした。
手の平を合わせ白い息を吹きかけて温めて
赤い手袋をはめる。
一息吸って空を見る。
きりっとした青空
応えるように笑顔を作ってみる。
一息大きく吐いて、
エンジンをかけた。


































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